お薬・十九方について

二十七種類の生薬を使った、工夫の行き届いた処方群。丸散薬が多く、携帯に便利。武田信玄が「十九方」を陣中の必携書とし、戦国時代の軍人医学書とも言うべき性質を持っていた。平時、救急に使用できる薬を、戦時下の傷病兵にも活用するため、どうしても携帯性と平易さが要求された。この「十九方」を別名「救急十九方」とも称する。

十九の煎じ薬に必要な二十七種類の生薬

1. 柱枝 ケイシ(シナモン)

体を温める作用、発汗・発散作用、健胃作用を持ち、温熱の作用があるとされる。

2. 甘草 カンゾウ

各種の生薬を緩和・調和する目的で多数の漢方方剤に配合されている。このため、漢方ではもっとも基本的な薬草の一つ。国内で発売されている漢方薬の約7割に用いられている。
緩和作用、止渇作用がある。
日本では300 年以上前から栽培されていた。江戸時代には山梨県甲州市(旧塩山市)でも。

3. 大棗 タイソウ(ナツメ)

生薬。ナツメまたはその近縁植物の実を乾燥したもの。強壮作用・鎮静作用がある。
甘味があり、補性作用・降性作用がある。葛根湯、甘麦大棗湯などの漢方薬に配合されている。

4. 生姜 ショウキョウ

しょうがの根茎。発散作用、健胃作用、鎮吐作用がある。乾燥させた根茎を生姜、蒸してから乾燥させたものを乾姜という。

5. 芍薬 シャクヤク

消炎・鎮痛・抗菌・止血・抗けいれん作用がある。

6. 葛根 カッコン

クズの根を干したもの。発汗作用・鎮痛作用。 

7. 麻黄 マオウ

発汗作用を持つ、現代でいう解熱鎮痛剤の一種。
風邪の初期で、頭痛・悪寒・発熱・腰痛・関節痛・咳・喘息などの症状の改善に用いられる。気管支喘息に効果のある成分エフェドリンが含まれる。

8. 杏仁 キョウニン

鎮咳剤・去痰剤として多く用いられている。
古くから「毒のある薬味」とされており、分量を慎重に決めるようにといわれていた。

9. 半夏 ハンゲ

烏柄杓のコルク層を除いた塊茎。
鎮吐作用のあるアラバンを主体とする多糖体を多く含んでおり、半夏湯(はんげとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)などの漢方方剤に配合される。他に、サポニンを多量に含んでいるため、痰きりやコレステロールの吸収抑制効果がある。

10. 桔梗 キキョウ

去痰、鎮咳、鎮痛、鎮静、解熱作用があるとされ、消炎排膿薬、鎮咳去痰薬などに使われる。主な産地は韓国、北朝鮮、中国。
桔梗湯(キキョウ+ カンゾウ)や十味敗毒湯、防風通聖散、排膿散などの漢方方剤に使われる。

11. 橘皮 キッピ

健胃作用、鎮咳作用、去痰作用、駆風作用。
血圧降下作用があり、胃もたれ、消化促進、食欲増進、風邪によるのどの痛みやせきなどに良いとされる。

12. 黄苓 オウゴン

消炎・解熱などに利用される。

13. 柴胡 サイコ

解熱、解毒、鎮痛、消炎薬として胸脇苦満(胸脇部の圧痛)があり、寒熱往来、黄疸、胸腹部もしくは脇下部(月経痛等)の痛みに応用する。

14. 茯苓 ブクリョウ

利尿、鎮静作用等。

15. 細辛 サイシン

解熱、鎮痛作用がある。小青竜湯、麻黄附子細辛湯、立効散などの漢方方剤に使われる。

16. 五味子 ゴミシ

鎮咳去痰作用、強壮作用などがある。
「五味子」の名は、甘味、酸味、辛み、苦味、鹹(塩味)を持つことから名付けられ、植物そのものの名前ともなった。
五味子は小青竜湯、清肺湯、人参養栄湯などの漢方方剤に配合される。また、五味子茶や五味子酒としても利用される。

17. 乾姜 カンキョウ

しょうがの根茎を蒸して乾燥させたもの。
興奮作用、強壮作用、健胃作用があるとされる。生姜よりも熱性が強い辛熱の性質があるとされるので胃腸の冷えによる機能障害では乾姜を使う場合が多い。

18. 附子 ブシ

トリカブトの「毒・漢方薬」の総称あるいは植物トリカブトの異名。強心作用、鎮痛作用がある。また、牛車腎気丸及び桂枝加朮附湯では皮膚温上昇作用、末梢血管拡張作用により血液循環の改善に有効である。しかし、毒性が強いため、附子をそのまま生薬として用いることはほとんどなく、修治と呼ばれる弱毒処理が行われる。

19. 人参 ニンジン ( オタネニンジン 朝鮮人参・高麗人参とも)

糖尿病、動脈硬化、滋養強壮に効能がある。血圧を高める効能があるため、高血圧の人は控えるべきだと言われてきた。しかし、血圧の高い人が飲むと下がるという報告もあり、実際は体に合わせて調整作用があるともいわれている。また、自律神経の乱れを整える作用もある。
江戸時代には大変に高価な生薬で、庶民には高嶺の花だった。このため、分不相応なほど高額な治療を受けることを戒める「人参飲んで首括る」のことわざも生まれた。

20. 当帰 トウキ

根は血液循環を高める作用があり、充血によって生じる痛みの緩和に有効。
膿を出し、肉芽形成作用があるとされている。

21. 白朮 ビャクジュツ

本種またはオオバナオケラの根茎。
補裨益気・燥湿利水・健胃作用・利尿作用・鎮静作用。
下痢・泥状便・食欲がない・上腹部が脹って苦しい・舌質が淡白・舌苔が白い・沈脈などの脾虚の症状があるときに用いる。

22. 蒼朮 ソウジュツ

水毒を去り、脾胃を健やかにする。発汗に作用し、健胃整腸、利尿薬。
漢方でいう水毒( 水分 代謝障害・不全) の要薬。
 

23. 防己 ボウイ

防衛力を高め、水分代謝を良くしてむくみをとる。多汗、浮腫、尿量の減少、頭痛、関節痛のほか、水を飲んでも太るような水太りタイプの肥満症や、風邪を引きやすいタイプの体質改善に用いることもできる。

24. 沢瀉 オモダカ

オモダカ科サジオモダカおよび近縁種の根茎。
利尿、止渇薬として、小便不利または、頻数、めまい、口渇、胃内停水などの症状に用いる。

25. 瞿麦 クバク

消炎・利尿薬などに用いる。
 

26. 天花 テンカフン

主としてあせもやただれ防止に皮膚に塗布する。

27. 琥珀 コハク

古代のカエデやマツの樹脂が地層中に埋もれて化石となったもの。安神、利水、活血などの効能があり、不眠症、痙攣、排尿障害などに利用。

徳本翁遺方に載る十九方

処方を適当に組み合わせながら、あらゆる疾病に対応しようとした。
黒鉛、緑礬、礬石、青蒙石、鉄粉などの鉱物薬の入ったものも多く、軽粉、辰砂などの水銀化合物も四処方に組み込まれている。

1. 發陳湯 ニチントウ

(桂枝、茯苓、半夏、柴胡、甘草、芍薬、橘皮、黄、大棗)現在では二陳湯という。
吐き気や嘔吐をおさえ、体を楽にする漢方薬。体力が中くらいの人で、胃に水分が停滞しチャポチャポしているときに、また頭痛やめまいをともなうときにも向く。
自然の草や木からとった「生薬」の組み合わせでできている。
二陳湯の構成生薬は下記の五種類。吐き気をおさえる“半夏”と“生姜”、余分な水分を取り去る“茯苓”、健胃作用のある“皮”、さらに緩和作用の“甘草”が加わる。これらがいっしょに働くことで、よりよい効果を発揮する。
病院では、煎じる必要のない乾燥エキス剤を用いるのが一般的。

2. 榮陽湯 エイヨウトウ

(麻黄、桂枝、葛根、甘草、芍薬、杏仁、半夏、桔梗、生姜、大棗)
現在の人参栄養湯。気と血を補う薬。肺を潤しながら胃腸の調子を改善する働きがある。空咳があるような胃腸の弱い人に向く。
血も補うのが異なるところで、顔色が悪いとか(女性で)経血の色が薄い、量が少ない、動悸があるなどの人に向く。気道に水分の多い人は、吐き気の可能性もあり。

3. 青龍湯 セイリュウトウ

(麻黄・桂皮・芍薬・半夏・五味子・細辛・乾姜・甘草)
現在では小青龍湯というアレルギー性鼻炎や喘息などに用いる漢方薬。
発汗作用があり、体の熱や腫れ、あるいは痛みを発散させる。また、水分バランスを調整する働きもある。
西洋医学的には、気管支拡張作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用などが認められている。具体的には、鼻カゼ、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、花粉症などに用い、とくに、カゼのひき始めなどでゾクゾク寒気がし、クシャミや水っぽい鼻水がたくさんでて困るときに適している。体力が中くらいの人に向く処方。
小青龍湯の構成生薬は下記の八種類。
薬理的に重要な役割をする“麻黄”には、交感神経刺激薬のエフェドリン類が含まれる。この成分は、西洋医学の気管支拡張薬と同様の作用を示し、咳やゼイゼイする喘鳴をおさえる。そのほか、おだやかな発汗・発散作用のある“桂皮”、痛みをやわらげる“芍薬”、咳やアレルギー症状をおさえる“半夏”や“五味子”、“細辛”などが含まれる。これらがいっしょに働くことで、よりよい効果を発揮する。病院では、煎じる必要のない乾燥エキス剤を用いるのが一般的。

4. 理中散

(茯苓、人参、白朮、桂枝、甘草、乾姜)

5. 容平丸

6. 瀉心円 シャシンマル

急・慢性胃腸カタル、発酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、二日酔、口内炎、神経症などに用いられる。
みぞおちのつかえ、食欲不振、悪心、嘔吐、腹が鳴る、軟便、下痢などを伴うものに用い、消化を助け諸症状を改善。

7. 解毒丸 ゲドクガン

(連翹・金銀花・甘草・牛蒡子・桔梗・淡豆・薄荷・淡竹葉・荊芥・羚羊角)
風邪によるノドの痛み、せき、口の渇き、頭痛・咽痛・悪風・かぜ・口渇・頭痛・せき・発熱・無汗に。

8. 救疝飲

9. 直行丸

10. 芍薬散

(当帰・川弓・芍薬・茯苓・朮・沢瀉)
貧血冷え性で、下眼瞼(がんけん)が貧血して眼の周辺に、うす黒いクマドリが出て、頭重、めまい、肩こり、動悸(どうき)などがあって、排尿回数が多く尿量減少し、喉が渇く、または、冷えて下腹部に圧痛を認めるか、痛みがあるときに。

11. 清済子湯

12. 当帰散 トウキサン

(当帰・芍薬・川窮・黄ゴン・白朮・蒼朮または白朮・沢瀉・茯苓)
体をあたため、貧血症状を改善する漢方薬。
お腹が張り気味で体力が無く息切れする、食欲はあるけど腹がつって食の進まない、妊娠によるむくみやめまいを目標に“当帰”と“川きゅう”には、血行をよくして貧血症状を改善し、体をあたためる作用がある。
“芍薬”は生理痛や肩こりなどの痛みをやわらげる生薬。また、“蒼朮”と“沢瀉”、“茯苓”は、漢方の代表的な利尿薬で、むくみ症状を改善したりする。
これらがいっしょに働くことで、よりよい効果を発揮する。

13. 順気散

(冬虫夏草、メシマコブ、アガリクス)
栄養補助に。
 

14. 禹余粮丸

15. 癇虫丸 カンムシマル

小児神経症に。

16. 玉丹

(巴豆、辰砂、鶏冠、礬石、藜芦、附子、水銀、黒鉛)
現在では玉丹栄心丸という漢方薬。益気養陰、活血化オ、清熱解毒、强心復脈の作用があり、ウイルス性心筋炎、心筋損傷などに有効。
玉丹栄心丸の構成生薬は玉竹、丹參、遼五味子、降香、苦參、蓼大青葉。

17. 磁石丸

現在では貧血性の耳なりの薬で「耳鳴丸(ジメイガン)」がある。

18. 排膿散

皮膚の腫れや発赤をしずめる漢方薬。
現在では排膿散及湯(ハイノウサンキュウトウ)という方剤。皮膚の腫れや発赤をしずめ、治りをよくする。
化膿性の皮膚病のほか、歯肉炎や歯槽膿漏などにも用いる。
主薬の“桔梗”には排膿をうながす作用があるといわれている。“枳実”や“芍薬”、“甘草”などは炎症や痛みをやわらげる。これらがいっしょに働くことで、よりよい効果を発揮する。病院では、煎じる必要のない乾燥エキス剤を用いるのが一般的。

19. 治瘡丸

(大黄、軽粉、牛膝、山帰来、梔子)